アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針

令和元年9月6日
閣議決定
アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律
(平成31 年法律第16 号。以下「法」という。)第7条第1項の規定に基づき、アイ
ヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針として本基本方針を定
める。
1 アイヌ施策の意義及び目標
(1)アイヌ施策の意義
・ アイヌ施策に関しては、これまでもアイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関
する知識の普及及び啓発に関する法律(平成9年法律第52 号)に基づく施策等を
推進してきたところであるが、今後は、アイヌの人々が抱える課題の解決を図るた
めには、従来のアイヌ文化振興施策や生活向上施策に加え、地域振興、産業振興、
観光振興等を含めた施策を総合的かつ効果的に推進し、アイヌの人々の誇りが尊重
される社会の実現に向けて、未来志向で施策を継続的に推進することが重要である。

・ また、アイヌの人々が日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、
宗教や文化の独自性を有する先住民族であるという認識の下、アイヌの人々の自主
性を尊重し、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(平成19 年)における関連
条項を参照しつつ、アイヌの人々の誇りが尊重される社会の実現に向けて、施策を
推進することが重要である。

・ 法に基づく措置については、法目的に沿ってアイヌ施策を適正かつ効率的に推進
するため、制度の適切な運用を図ることとし、市町村によるアイヌ施策推進の取組
について、アイヌの人々の要望等が十分に反映されるよう、適切な指導を行う必要
がある。

・ 衆議院及び参議院による「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」(平
成20 年6月6日)でも述べられているように、我が国が近代化する過程において、
多数のアイヌの人々が、法的には等しく国民でありながらも差別され、貧窮を余儀
なくされたという歴史的事実を、我々は厳粛に受け止めなければならない。

・ アイヌの人々が北海道のみならず全国において生活していることを踏まえて、全
国的な視点に立って、アイヌ施策を進めていく必要がある。

(2)アイヌ施策の目標
・ 政府は、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、及び
その誇りが尊重される社会の実現を図り、もって全ての国民が相互に人格と個性
を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目標とする。

・ 都道府県は、地域ごとにアイヌ施策に関する状況が異なることに留意した上で、
各都道府県において適切な目標設定を行うこととする。

2 政府が実施すべきアイヌ施策に関する基本的な方針
(1)アイヌ施策の総合的かつ効果的な実施
・ これまでの施策に加え、アイヌ文化の振興等のための環境を整備し、アイヌの
人々の自立を最大限支援するため、法律上の特例措置やノウハウの提供等を通じ
て、市町村における地域振興、産業振興、観光振興、国際・国内交流事業の推進、
環境の保全の推進などの施策を総合的かつ効果的に実施する。


・ 政府は、存続の危機にあるアイヌ語の復興に向けた取組、アイヌ文化の振興等
の充実及びアイヌの伝統等に関する知識の普及啓発に関する取組に今後とも一層
努める。

(2)人権に関する事項について
・ アイヌの人々に対する差別については、共生社会の実現を目指すアイヌ施策の
目標に反するものであり、法第4条においても、アイヌの人々に対する差別の禁
止に関する基本理念を定めている。

・ 差別の解消に資する施策を推進するため、アイヌの歴史や文化を紹介したパン
フレット等の作成・配布やアイヌに関する教育活動の推進、民族共生象徴空間(以
下「ウポポイ」という。)において、来場者にアイヌの衣食住、舞踊、工芸等を体
験してもらうことを通じて、アイヌの歴史や文化の魅力について国民の理解を深
めるとともに、人権等に関する相談窓口について、市町村等の関係機関を通じた
広報を行うなどの措置を講ずる。

(3)国、地方公共団体及び指定法人の連携
・ アイヌ施策の目標を達成するためには、国及び地方公共団体において、法第5
条に定める責務を果たすことが重要である。

・ 法律上の特例措置である国有林野における共用林野の設定や漁業法(昭和24 年
法律第267 号)及び水産資源保護法(昭和26 年法律第313 号)による許可につい
ての配慮については、アイヌにおいて継承されてきた儀式の保存又は継承等を事
業の目的とする趣旨に鑑み、関係機関と緊密な連携の下、アイヌの人々の視点に
立ち、制度の円滑な運用に努める。

・ 指定法人(法第20 条第1項の規定に基づき国土交通大臣及び文部科学大臣の指
定を受けた者をいう。以下同じ。)においても、法第21 条に定める業務を適切に
実施することが求められる。このため、国、地方公共団体及び指定法人はアイヌ施
策を推進するに当たり、情報提供などの密接な連携を図る。

3 民族共生象徴空間構成施設の管理に関する基本的な事項
(1)ウポポイの役割等
・ ウポポイは、アイヌの歴史、文化等に関する展示及び調査研究並びにアイヌ文化
の伝承、そのための人材育成、体験交流、情報発信及び豊かな自然を活用した憩い
の場の提供その他の取組を通じてアイヌ文化の復興に関する我が国における中核
的な役割を担う。

・ ウポポイは、アイヌ文化の復興等を図るとともに、国際観光や国際親善に寄与す
るため、2020 年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に先立
ち、令和2年4月24 日に一般公開し、年間来場者数100 万人を目指すものとする。
このため、ウポポイへの誘客促進に向けた広報活動やアクセスの改善、コンテンツ
の充実等を図る。

・ また、先住民族にその遺骨を返還することが世界的な潮流となっていること並び
にアイヌの人々の遺骨及び付随する副葬品(以下「遺骨等」という。)が過去に発
掘及び収集され、現在、全国各地の大学において保管されていることに鑑み、関係
者の理解及び協力の下で、アイヌの人々への遺骨等の返還を進め、直ちに返還でき
ない遺骨等についてはウポポイに集約し、アイヌの人々による尊厳ある慰霊の実現
を図るとともに、アイヌの人々による受入体制が整うまでの間の適切な管理を行う
役割を担うこととし、遺骨等の慰霊及び管理のための施設(以下「慰霊施設」とい
う。)においては、管理する遺骨等を用いた調査・研究を行わないものとする。

(2)ウポポイの管理に関する基本的な事項
① ウポポイを構成する施設等
・ ウポポイは、次に掲げる区域及び施設で構成する。
イ アイヌ文化の復興の中核となる国立アイヌ民族博物館及び国立民族共生公園
(国が設置する公共空地をいう。以下同じ。)を設置する区域(以下「中核区域」
という。)(中核区域は、北海道白老郡白老町若草町(ポロト湖畔周辺地域)に設
定する。)
ロ 慰霊施設(慰霊施設は、北海道白老郡白老町字白老に整備する。)
ハ 国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園及び慰霊施設を管理するための施設
その他これらの施設の効用を全うする施設
・ 地方公共団体は、中核区域と連携してアイヌ文化の復興のための利活用を図る
関連区域を設定することができる。

② ウポポイを構成する施設等の管理
・ ウポポイの中核区域及び慰霊施設を一体的に運営し、アイヌ文化の伝承、人材
育成活動、体験交流活動等の実施に当たる運営主体は、指定法人とする。指定法人
は、アイヌの人々の主体的参画を確保しつつ、法第9条第1項の規定に基づき、ウ
ポポイの管理業務を行い、国土交通大臣及び文部科学大臣は、適切な運営が図ら
れるよう指定法人に対する適切な指揮監督を行う。
③ アイヌ文化の復興等に向けたネットワークの構築等
・ アイヌ文化の復興、国民理解の促進等に際しては、ナショナルセンターとして
のウポポイの取組と、各地域におけるアイヌ文化の伝承、人材育成等に関する取
組や、地方公共団体、経済界等による地域振興、観光振興等の取組との連携を併せ
て推進することにより相乗効果を高めていくことが極めて重要である。
・ アイヌ文化伝承活動等が盛んな地域とウポポイとの連携を図り、それらを核と
したアイヌ文化復興等に関する取組の全国的な拡大とネットワーク化に取り組む。

4 アイヌ施策推進地域計画の認定に関する基本的な事項
(1)アイヌ施策推進地域計画の認定基準
アイヌ施策推進地域計画(以下「計画」という。)の認定基準は、法第10 条第9項
各号による。具体的な判断基準は、次のとおりとする。


① 1の「アイヌ施策の意義及び目標」に適合しており、かつ、(3)の「計画の認
定手続」に定められた事項にのっとっていること。
② 1の「アイヌ施策の意義及び目標」に適合したアイヌ施策の推進を図るために
必要な事業が記載されていること。
なお、反社会的勢力やその関係者の行う又は行うことが想定される事業が記載
されている場合は、これを認定しない。
③ アイヌ施策の推進を図るために行う事業について、
イ 事業の実施主体が特定されているか、特定される見込みが高いこと。
ロ 事業の実施スケジュールが明確であること。

(2)計画の作成の提案
・ アイヌ施策の推進に資する事業を行おうとする者は、市町村に対して、計画を
作成することを提案することができる。この場合においては、基本方針に則して、
当該提案に係る計画の素案を作成して、これを提示することとする。
・ また、当該提案を受けた市町村は、当該提案に基づき計画を作成するか否かに
ついて、遅滞なく、当該提案をした者に通知することとする。

(3)計画の認定手続

① 計画の認定申請に当たっての手続
イ 計画の認定申請の受付時期
計画の認定申請に関する具体的なスケジュールは内閣府が別に定め、公表する。
ロ 計画の認定申請を行う主体
市町村は、単独で又は共同して、計画の認定を申請することができるものとす
る。

② 計画の認定申請に当たっての留意事項
イ 都道府県については、広域的な観点から自主的に施策を推進しつつ、必要に応
じて市町村を支援する役割が期待される。そのため、市町村は、計画を作成する
際には、法第8条第1項の規定に基づき都道府県知事が定めるよう努めることと
されている都道府県の区域内におけるアイヌ施策を推進するための方針(以下
「都道府県方針」という。)が定められているときは、法第10 条第1項の規定に
基づき当該都道府県方針を勘案することとする。
ロ 市町村が計画を作成する際には、法第15 条第1項に定める交付金がアイヌ文
化の振興等に資する環境の整備及びアイヌの人々が抱える課題の解決のため有
効に活用されるよう、アイヌの人々の要望等を反映するよう努めることとする。

③ 計画の記載事項
・ 計画の記載事項は、法第10 条第2項及びアイヌの人々の誇りが尊重される社
会を実現するための施策の推進に関する法律施行規則(令和元年内閣府令第4号)
に定めるとおりとする。

④ 国の関係行政機関の長の同意等
・ 内閣総理大臣は、認定の申請があった計画に、国有林野における共用林野の設
定、漁業法及び水産資源保護法による許可についての配慮又は商標法(昭和34 年
法律第127 号)の特例に関する事項が記載されている場合には、計画の認定(そ
の変更を含む。以下同じ。)に際し、当該事項に係る関係行政機関の長の同意を得
るものとする。
・ 関係行政機関の長の同意は、期限を付して文書により求めるものとする。関係
行政機関の長は、期限までに同意又は不同意の回答を行うものとする。
・ 関係行政機関の長が不同意をする場合には、具体的な理由を付するものとする。
この場合において、内閣総理大臣は当該計画の認定の判断を行うに当たって、当
該計画を作成した市町村及び関係行政機関から事実の確認等を行い、所要の調整
を図るものとする。
・ 関係行政機関の長は、同意する場合にあっては、当該計画の認定に当たって条
件を付すことを、内閣総理大臣に対して求めることができるものとする。

⑤ 計画の認定
・ 内閣総理大臣は、④の関係行政機関の長の同意を得て、法第10 条第9項の規定
により、計画の認定を行う。認定基準を満たさない部分又は関係行政機関の長の
同意が得られなかった部分があった場合において当該部分を除外した部分に限り、
又は必要と認める場合において一定の条件を付して認定を行うことができること
とする。
・ 計画を内閣総理大臣が認定しなかった場合及び認定した場合であっても関係行
政機関の長の同意が得られず認定の対象から除外した部分があった場合において
は、理由を付して当該市町村に通知するものとする。
・ 法第10 条第10 項の規定により、内閣総理大臣は計画の認定を行うに際し必要
と認めるときは、アイヌ政策推進本部に対し、意見を求めることができることと
なっている。必要と認める場合とは、計画の認定に際して、アイヌ政策推進本部
の総合的な調整を必要とする場合である。
・ 法第10 条第11 項の規定により、内閣総理大臣は計画の認定をしようとすると
きは、その旨を当該認定に係る計画を作成した市町村を包括する都道府県の知事
に通知しなければならない。この場合において、当該都道府県の知事が都道府県
方針を定めているときは、計画の認定に関し、内閣総理大臣に対し、意見を述べ
ることができることとする。
・ (4)に定める特例措置を活用して行う事業が記載されている計画の認定に際し、
同意をした関係行政機関の長は、当該事業の実施の状況について、必要に応じ、
報告を求めるものとする。
・ また、当該計画について、法第14 条の規定に基づき、内閣総理大臣が認定の取
消しを行う場合には、あらかじめ、当該関係行政機関の長にその旨を通知するこ
ととし、通知を受けた当該関係行政機関の長は、この認定の取消しに関し、内閣
総理大臣に意見を述べることができることとする。あわせて、この通知が行われ
る場合のほか、当該関係行政機関の長は、当該計画の認定の取消しに関し、内閣
総理大臣に意見を述べることができることとする。この場合、内閣総理大臣は、
当該関係行政機関の長の認定の取消しに関する意見について、認定基準に適合し
なくなった旨の明らかな理由が示されている場合には、当該計画に係る認定のう
ち当該関係行政機関の長が同意を行った部分について、法第14 条の規定に基づ
き取消しを行う。
・ 認定を受けた計画については、内閣府においてインターネットの利用その他の
適切な方法により公表するとともに、市町村のホームページ等においてもその内
容を閲覧できるようにすることが望ましい。

(4)計画の認定制度に基づく法律上の特例措置
① 交付金の交付
・ 法第15 条第1項の規定により、認定を受けた計画(以下「認定計画」という。)

に基づく事業の実施に要する経費に充てるため、予算の範囲内で、交付金を交付
することができる。
② 国有林野における共用林野の設定
・ 内容については、別表第1のとおりとする。
③ 漁業法及び水産資源保護法による許可についての配慮
・ 内容については、別表第2のとおりとする。
④ 商標法の特例
・ 内容については、別表第3のとおりとする。
⑤ 地方債の特例
・ 認定計画に基づいて行う事業に要する経費に充てるため起こす地方債について
は、国は、当該認定を受けた市町村の財政状況が許す限り起債できるよう、及び
資金事情が許す限り財政融資資金をもって引き受けるよう特別の配慮をするもの
とする。

(5)認定計画の進捗状況の把握及び効果の検証
・ 地域のアイヌ施策の推進に当たっては、その取組が効果的なものとなるよう、地
域自らが、明確なPDCA サイクルの下に、その施策効果を的確に検証し、改善等を
行うことが重要である。
・ 市町村は、計画期間中に、認定計画に掲げた取組の着実な実施を通じてアイヌ施
策が推進されるよう、定期的にフォローアップを行うものとする。
その結果、認定計画に記載された事項と地域の現状や事業の実施状況等から判断
し、必要と認められる場合には、速やかに当該計画の見直しを行い、見直した計画
について、再度認定の申請を行わなければならない。
・ 内閣総理大臣は、計画の認定を受けた市町村に対し、計画に記載された事業の実
施状況等について、報告を求めることができることとし、報告を求めた場合には、
その内容を公表する。
5 その他アイヌ施策の推進のために必要な事項
・ アイヌ文化の振興等に資する環境の整備に関する施策の推進に当たっては、アイ
ヌの人々の実態等の把握に努めるとともに、国、地方公共団体等の連携の強化を図
ることとする。
・ 法の施行後、法の施行状況について適時適切に検討を行い、その結果に基づき得
られた課題に関し、必要な措置を講ずることとする。なお、その際にはアイヌの人々
の意見を十分踏まえることとする。
・ 我が国のアイヌ政策に係る国連人権関係諸機関による勧告や、諸外国における先
住民族政策の状況にも留意する。

附 則
「アイヌ文化の復興等を促進するための民族共生象徴空間の整備及び管理運営に
関する基本方針について」(平成26 年6月13 日閣議決定)は、廃止する。

 いよいよ、来た。

改正入管法と同じ、発想。この特例措置はどうするのだろう。

今回、閣議決定は日本を分断する一歩なのかも知れない。

日本人はどこまで、踏ん張れるか、再考したいと思います。

(4)計画の認定制度に基づく法律上の特例措置
① 交付金の交付
・ 法第15 条第1項の規定により、認定を受けた計画(以下「認定計画」という。)
に基づく事業の実施に要する経費に充てるため、予算の範囲内で、交付金を交付
することができる。
② 国有林野における共用林野の設定
・ 内容については、別表第1のとおりとする。
③ 漁業法及び水産資源保護法による許可についての配慮
・ 内容については、別表第2のとおりとする。
④ 商標法の特例
・ 内容については、別表第3のとおりとする。
⑤ 地方債の特例
・ 認定計画に基づいて行う事業に要する経費に充てるため起こす地方債について
は、国は、当該認定を受けた市町村の財政状況が許す限り起債できるよう、及び
資金事情が許す限り財政融資資金をもって引き受けるよう特別の配慮をするもの
とする