認知症が進行中の遺言書の効力

 認知症の患者さんは増加傾向にあり、2050年には高齢者の認知症有病率は、現在の15%から25%程度まで増えるとされています。2015年は65歳以上でアルツハイマー型認知症は700万人と言われています。

 1  問題の所在

  そこで、認知症にかかった人の遺書はどこまで有効なのか。切実な問題になってくるのです。民法第963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定めます。これは「遺言が有効となるには、遺言を書いた者が遺言を書くときに、遺言を書く能力(遺言の内容を理解し、それを文書にする能力)を持っていなければならない」という、当たり前のことを言っているのですが、この規定から「認知症の患者さんは遺言能力を有するか?」が問われることになります。

  そして、その回答は「認知症の程度と遺言の内容、および遺言が作られた時の状況による」のです。

 認知症判断基準と判例

  認知症か否かを判定するための方法として現在、長谷川式スケール(HDS―R)というテストが広く用いられています。このテストは30点満点中20点以下で認知症の疑いが強く、19~11点を中等度、10点以下を重度とします。

 判例上も、長谷川式スケールで4点と重度の認知症の方でも、①遺言の内容が簡単である②看護日誌から当時看護師と会話できたと認められたことから、遺言が有効とされたもの(京都地裁2001年10月10日判決)がある一方で、9点の方でも、①遺言の内容が複雑②遺言作成時公証人の言葉に対して「はい」などの簡単な返答しかしなかったことから、遺言無効とされた例もあります(横浜地裁06年9月15日判決)。

 もし、認知症の親御さんが遺言の作成を希望しているなら、効力を巡る争いを避けるために、公証役場で証人2人と公証人の下で作成する公正証書遺言を作成すると同時に、日記、動画、カルテ、看護・介護記録を保管しておくことをお勧めします。

 3 遺言書を書く書かないは本人の自由

  一方で、有効無効は別として、遺言を書く書かないは本人の自由であり、認知症の親御さんが自身で遺言を書くことを止めることはできませんし、兄弟姉妹のひとりが、自分に有利な遺言を書くよう働きかけたり、書くのをやめさせたりすることは問題です

 期せずして不合理な経緯で不利な遺言がなされたら、その有効性を争うことは可能なのですが、そのような事態を防ぎ、万一の場合に適切に対応することが必要であると思います。

 

 このような場合の遺言書はトラブルに発展するおそれがありますので、認知者の方への気遣いも踏まえて対応することが必要ではないでしょうか。もし、トラブルに巻き込まれたら、弁護士にご相談ください。

 本件は、参考記事を私の視点でまとめさせていただきました。詳細は参考記事をご覧ください。

<参考記事>

認知症が進行中の親の遺言書 どこまで有効でしょうか

公開日:2019/07/24 06:00 更新日:2019/07/24 06:00

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
【A】重度でも認められるケースはある
 前新潟県知事、医師、弁護士の米山隆一です。私も齢51、父母は80に近づき、ボケや介護などが頭をよぎるようになりました。医療、法律、行政の知識・経験を生かして読者のみなさんと一緒に「老親」に対する悩みを考えていきたいと思います。


 さて、初回は「認知症と遺言」です。認知症の患者さんは増加傾向にあり、2050年には高齢者の認知症有病率は、現在の15%から25%程度まで増えるとされています。

 そこで、認知症にかかった人の遺書はどこまで有効なのか。切実な問題になってくるのです。民法第963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定めます。これは「遺言が有効となるには、遺言を書いた者が遺言を書くときに、遺言を書く能力(遺言の内容を理解し、それを文書にする能力)を持っていなければならない」という、当たり前のことを言っているのですが、この規定から「認知症の患者さんは遺言能力を有するか?」が問われることになります。

そして、その回答は「認知症の程度と遺言の内容、および遺言が作られた時の状況による」のです。

 一般の方は「認知症かどうか」を「病気か健康か」という「YesかNoか」で考えがちです。しかし、認知症の場合は違います。

 人の「心」が体のどこかに凝集されており、それが病気になると認知症になるというイメージがあるかもしれませんが、実際に人の心は、頭蓋骨の中の1.3リットルほどの脳の中にある140億個ほどの脳細胞に広がっているのです。認知症は、この脳細胞が老化とともに1つずつ死んでいき、「心のパーツ」が徐々になくなっていく病気であり、「YesかNoか」ではなく、患者さんごとに、状況ごとに、できること、できないことが異なるのです。

 認知症か否かを判定するための方法として現在、長谷川式スケール(HDS―R)というテストが広く用いられています。このテストは30点満点中20点以下で認知症の疑いが強く、19~11点を中等度、10点以下を重度とします。

判例上も、長谷川式スケールで4点と重度の認知症の方でも、①遺言の内容が簡単である②看護日誌から当時看護師と会話できたと認められたことから、遺言が有効とされたもの(京都地裁2001年10月10日判決)がある一方で、9点の方でも、①遺言の内容が複雑②遺言作成時公証人の言葉に対して「はい」などの簡単な返答しかしなかったことから、遺言無効とされた例もあります(横浜地裁06年9月15日判決)。


 もし、認知症の親御さんが遺言の作成を希望しているなら、効力を巡る争いを避けるために、公証役場で証人2人と公証人の下で作成する公正証書遺言を作成すると同時に、日記、動画、カルテ、看護・介護記録を保管しておくことをお勧めします。

■遺言を書く書かないは本人の自由

 一方で、有効無効は別として、遺言を書く書かないは本人の自由であり、認知症の親御さんが自身で遺言を書くことを止めることはできませんし、兄弟姉妹のひとりが、自分に有利な遺言を書くよう働きかけたり、書くのをやめさせたりすることは問題です。


期せずして不合理な経緯で不利な遺言がなされたら、適切な弁護士に依頼して、その有効性を争うことは前述の通り可能なのですが、そのような事態を防ぎ、万一の場合に適切に対応するには、平素から親御さんと接し、状況を把握しておくことが重要です。

 認知症となった親御さんも、失われていない心のパーツは以前と同様に動いており、その心遣いに幸福を感じてくれることでしょう。