2024/2/27

契約の有効性

初歩的ですが、上場企業の契約の有効性について、取り上げてみたいと思います。契約の有効性に関連する論点を理解するには、契約法の基本原則を把握することが重要です。これらは、上場企業、中小企業を問わず契約の成立やその有効性に影響を及ぼす基本です。主な論点を以下に示します。

【契約法の基本原則】

1. 契約能力

  • 契約当事者の能力: 契約を結ぶ当事者が法律上、契約を結ぶ能力を有しているか。未成年者、精神上の障害を持つ者などがこのカテゴリーに含まれる。

2. 合意

  • 意思の合致: 契約の成立には、当事者間の合意が必要。この合意は、申し込みとその承諾によって成立する。
  • 明確性と確定性: 契約条件が明確かつ確定的でなければならない。曖昧または不確定な契約条件は、契約の有効性を損なう可能性がある。

3. 対価

  • 対価の存在: 契約には、通常、当事者が互いに提供する対価(サービス、金銭、物品等)が必要。
  • 対価の公正性: 対価が極端に不均衡な場合、契約は不当利得や搾取とみなされる可能性がある。

4. 合法性

  • 目的と原因の合法性: 契約の目的や原因が法律に違反している場合、契約は無効となる。
  • 公序良俗: 契約内容が社会の公序良俗に反しないこと。

5. 形式

  • 契約の形式要件: 一部の契約は、特定の形式(書面での契約、登記等)を満たさなければならない。形式を満たしていない契約は、有効性を欠く可能性がある。

6. 誤解と詐欺

  • 誤解に基づく契約: 当事者が重要な事実に関して誤解していた場合、契約は無効または取り消し可能となる。
  • 詐欺や強迫: 契約が詐欺や不正な手段、強迫によって成立した場合、契約は無効または取り消し可能。

7. 第三者の権利

  • 第三者の権利の影響: 契約が第三者の権利を侵害していないか。

これらの論点は、契約の有効性を判断する際に考慮すべき基本的な要素です。

【上場企業の契約の有効性】

上場企業の取引において問題となる事例は多岐にわたりますが、主に法律や倫理的な観点から問題視されるものがあります。

1.法律的な視点ー適切なガバナンスとコンプライアンス体制の維持
  1. インサイダー取引:企業の内部情報を不正に利用して証券取引を行うこと。未公開情報を基に株式などを売買することは、公平な市場競争を阻害するため、多くの国で厳しく規制されています。

  2. 不正会計:利益を水増しするために、収益や費用を偽装する行為。エンロン社の会計スキャンダルなどが有名です。これにより投資家が誤った情報に基づいて判断を下すことになり、市場の信頼性を損ないます。

  3. 情報の遅延開示:重要な企業情報の開示を遅らせること。株価に影響を与えるような重要な情報は、すべての市場参加者に公平に提供される必要があります。

  4. 市場操作:偽の情報を流布する、あるいは取引を通じて意図的に株価を操作する行為。小規模な取引を繰り返し行うことで株価の活発な動きを装う「ペイント・ザ・テープ」などが該当します。

  5. 利益相反の取引:取締役や経営者が自身の利益のために、会社の利益を犠牲にする行為。例えば、経営者が自分の関連会社と不当に有利な条件で取引を行うケースなどがこれにあたります。

  6. 違法な競争阻害:カルテル形成や不公正な取引慣行を通じて、市場の競争を不当に阻害する行為。公正取引委員会などの規制機関が監視し、罰則を科すことがあります。

これらの行為は、市場の健全な機能を損なうだけでなく、企業の評判や株価にも深刻な影響を与え、最終的には投資家や従業員、消費者に損害を与える可能性があります。そのため、上場企業にとって重要なことは、これらのリスクを管理することが、適切なガバナンスとコンプライアンス体制を維持することです。

ここで、上場企業だから契約は有効なのだという不遜な対応が問題となる場合があります。

2.倫理的視点ー企業の信頼性や社会的評価に深刻な影響を及ぼす可能性

倫理的な観点から問題視される行為は、法律違反であることはもちろん、企業の社会的責任や道徳的義務に反するものです。特に問題視される倫理的な場合をあげます。

  1. 労働権の侵害:過酷な労働条件、不当な賃金、児童労働、強制労働など、従業員の権利と尊厳を無視する行為。

  2. 環境破壊:過度な資源採掘、汚染物質の不適切な排出、森林破壊など、環境に対する責任を無視した企業活動。

  3. 消費者の権利の侵害:虚偽の広告、不当な商慣行、製品の安全性に関する情報の隠蔽など、消費者に対する不正行為。

  4. プライバシーの侵害:個人情報の不適切な収集、使用、共有、セキュリティ管理の不備による情報漏洩など、個人のプライバシーとデータ保護に関する問題。

  5. 不公正な取引慣行:サプライヤーや競合他社に対する不公平な圧力や、市場の公平性を害するようなビジネス慣行。

  6. 社会的責任の無視:地域社会への貢献や社会的問題への取り組みを怠ること。企業が社会的に重要な課題に対して無関心であるか、責任を放棄する行為。

  7. 利益相反:企業の決定が、特定の個人やグループの私的利益によって不当に影響されること。これには、経営者が自己の利益のために企業の資源を利用する行為などが含まれます。

これらの倫理的な問題は、企業が長期的な成功を達成し、社会からの信頼を獲得するために避けなければならない重要な課題です。企業倫理の強化、コーポレートガバナンスの向上、ステークホルダーとの対話の促進などを通じて、これらの問題に対処することが求められます。この中に触れていませんが、社会全体の意識のなかで適切な対応を取るべき取引において特に問題視される場合があります。それは、高齢者の特性や状況を不当に利用することに関連するものとして、高齢者との取引があります。深刻な問題とされている事例を挙げます。

  1. 詐欺:高齢者を狙った電話詐欺やインターネット詐欺など、高齢者が詐欺のターゲットになりやすいケースが多い。これらは、高齢者の情報に対する認識の低さや、孤独感を利用した悪質な手口があります。

  2. 不当な契約勧誘:高齢者宅を訪問し、高圧的な営業手法や誤解を招く情報で不必要な商品やサービスを契約させるケース。例えば、使い勝手が悪い高額な健康器具や、必要のない保険商品の契約などがこれに該当します。

  3. 金融商品の不適切な販売:高齢者に理解できない複雑な金融商品を勧める、または高齢者のリスク許容度に不適合な投資商品を販売する行為。これには、過度にリスクの高い株式や、理解しにくい金融派生商品の販売が含まれます。

  4. 遺産や財産を巡る不正:遺産相続の際に、高齢者を騙して遺言を変更させる、または財産を不当に譲り受ける行為。高齢者が認知症などで判断能力が低下している状況を悪用するケースがあります。

  5. 高齢者虐待:身体的、精神的、経済的虐待や、放置など、高齢者に対するさまざまな形態の虐待。特に介護が必要な高齢者が狙われやすく、親族や介護者による虐待が問題となることもあります。これらの基本情報を前提として、昨今問題となるケースを次の機会に上げます。